刊行物情報

生活協同組合研究 2010年5月号 Vol.412

特集:子ども政策をどのように構想するか

 いわゆる「子ども手当法」が2010年3月に成立,4月から限定的ながら支給申請が開始された。民主党政権の目玉政策の一つであったこの政策が,なんとか実行に移された。

 この特集では,子ども手当自体をどのように評価するか,という視点ではなく,まずはそれを子どもや次世代育成支援の政策のパッケージの一つとしてとらえ,その総合的な推進と考え方の整理の上でどのような検討が必要なのか,を考察する。またこのことは,大沢真理氏(東京大学)や宮本太郎氏(北海道大学)の指摘する「生活保障」の視点としてとらえるときに,子ども政策が,社会保障,税制,そして労働政策の連携の中でどのように位置づけられるのか,という総合的な視座が求められていると考えることもできる。そして国・地方・企業・家計はどの程度の,またどのような負担をすべきで,現場レベルで求められている支援とは何か,を明らかにしていくことが求められている。

 子どもの貧困の問題,また次世代育成支援の枠組みの中での保育所等,現物給付の不足が大きくクローズアップされるなか,どのような政策が適切にこれらの問題に対してアプローチできるのか。本特集では3つの論文によって,考え方を整理している。

 駒村康平氏(慶応義塾大学)は,政策間の連携が不十分であり,それがバラバラに議論されている現状に警鐘を鳴らし,それぞれの政策の目的を明確にしていくことと同時に,社会保障,税制,労働政策の総合的な連携と,次世代育成支援における給付と財源の一元化など,魅力的なビジョンを指し示している。椋野美智子氏(大分大学)は,子ども政策の今後のあり方を構想する上で,その論点と課題を,「にっぽん子育て応援団」のアンケートなどを参照しつつ,考察している。福川須美氏(駒沢女子短期大学)は,課題となっている父親の育児の支援の課題をデータを踏まえながら指摘し,その制度的な課題を主に指摘している。

 生活の主体であり,地域で暮らす主体としての生協組合員のくらしを考える上で,本特集での子ども政策についてのマクロ・レベルの議論を前提としながら,身近な自治体レベルでの子ども政策のあり方などに関与していくことが,今後求められているのではないだろうか。

(山口浩平)

主な執筆者:駒村康平,椋野美智子,福川須美

目次

巻頭言
資本の総流通(大石芳裕)
特集:子ども政策をどのように構想するか
社会保障,税制,労働政策の連携──子ども手当をどのように考えるか──(駒村康平)
新たな子ども政策の展開に向けて(椋野美智子)
日本における父親支援(福川須美)
研究と調査
ワーカーズ・コレクティブ研究の動向──90年代後半からの展開──(米澤 旦)
米国経済停滞下のNPOと協同組合(デボラ・シュタインホフ(翻訳:藤井晴夫))
研究資料
韓国の新しい「生協法」の特徴について(丸山茂樹)
海外のくらしと協同No.10
韓国生協の運動をささえるナヌム活動(金 亨美)
文献紹介
上野千鶴子・辻元清美『世代間連帯』(栗本 昭)
研究所日誌