• 研究所の概要
  • 研究活動
  • 助成・表彰事業
  • 刊行物情報

海外報告
第14回 国際協同組合同盟アジア・パシフィック協同組合研究会議報告【近本聡子】

出席した国際学会

  • ○第14回 国際協同組合同盟アジア・パシフィック協同組合研究会議
    14th ICA-AP Cooperative Research Conference
  • ○日時 2019年12月12日~14日
  • ○会場 ニューカッスル大学 経営法学部the Faculty of Business and Law, University of Newcastle
  • ○全体テーマ アジア太平洋地域における協同組合と相互組織間の協力
    ――豊かな発展と持続可能な未来を志向し共に働く
    “Co-operation among cooperatives and mutuals in the Asia-Pacific region – working together to achieve a flourishing and sustainable future”

概要

 全体テーマで提示されているように、オーストラリアでは協同組合と相互組織(相互会社)は同じ範疇にくくられ、政府統計も合体させたものになっている。日本で使われている「サードセクター」より狭い概念で、サードセクターからボランティア組織やチャリティー組織などいつまでも狭義の非営利性を保つところを含まない経済体としての分類である。

 このような視点からみても、協同組合について学ぶ者は国際的な研究会議に出席することをお勧めしたい。自からの組合が「正しい」「正義である」と思っている協同組合メーカーや運営者であっても、国の制度的限界や法整備の不十分さ、目的の違い、できることとできないこと、経済的な成功への道筋(すなわち持続可能性)の違い、など複眼的に検証・自省することができる。また、最新の政策作りとして、どういう社会を目指すのか、どのような役割を担うことができるのか、という発見や課題の探索も容易になる。生物進化におけるガラパゴスにならないよう、学術的な方法論や比較視点も得ることができるだろう。

 今回、近本が参加したICAのアジア・パシフィック地域の研究会議は、初めてオーストラリアで開催され、研究者としてはとても刺激的な機会を得た。かつての宗主国のUKの協同組合とは、やや共通するけれども様々な点で異なるたくさんの協同組合の経験について調査研究した結果に触れることができた。会議は、ニューカッスル大学で開催された。複雑な海岸線をもつ港町でもあり、地域の中心都市である。地域活性化の政策で、かつての中心市街地に新しく建設された経営法学部棟で開催。この市ではトラムを活用した街のリノベーションが進んでいる様子だった。市が位置するのはオーストラリアのなかでも経済的に豊かな地域、日本の国土の約20倍と広大な大陸であるが、ニューサウスウェルズ州という南東部に位置する州のなかで、シドニーの北部150kmほどのところである。

この学会の特色

大きな教室でもアクティブラーニングができる設計
(ICA-AP公式撮影)

 一つはオーストラリアの研究者が初めて本学会で開催したので、これまで様子の分からなかったオーストラリア協同組合の研究成果が垣間見られたこと。もう一つは国際学会では見かけることが多くなったが、若手研究者専門のワークショップ(ICAのAP学会では初めてという)を設置して、次世代の議論を開催したこと。更に、大学の建造物そのものが最新であるため、各教室や大会議室の設計がアクティブラーニングに適した空間づくりになっていること。これは、日本では首都圏でもほとんど見られない空間づくりで、マスプロの講義を前提とした日本の大学で、方向を変えるべき重要なところだと考える。

全体テーマに関連するポイント

 事前資料で驚いていた「協同組合を卒業する」という概念が定着している統計をいくつかみたのが新鮮であった。津田(2012)によると、当事国では協同組合は500人を超えると事業体に移行しなければならない。つまり、成長する企業・事業の卵としての協同組合を想定した、法制度概念が存在しているということである。アメリカの大企業であるサンキスト(元農協)やベストウェスタン(宿泊業のブランド)などまで成長するものは珍しいが、市民事業を発展させ、収益が伸びて規模が大きくなったら制度として社会に還元(税金を法人として納める)してもらうという流れを想定しているということである。現代の当事国では、州法や事業分野ごとに異なるが、特に「金融」「共済」の領域では、協同組合を卒業していく組織が多く、この分野の協同組合や相互会社の数は近年減少しているという報告があった。

 新しい協同組合の形態である「プラットフォーム協同組合」についても、話題になったが、「統計には入れるか?という話もあるが入れてない」と研究者が冗談まじりで述べていた。WEB上にはたくさんのプラットフォーム型協同組合が発生していることを追認できた。過激なもののなかでは、「ボス(管理職)をクビにしろ」「ボスはいらない」という完全平等型のネットワーク組織を目指し、社会(世界)に向けて発信しているところもある。ボトムアップ型組織、完全に労働する者側からの発想で組織を作っていて、協同組合の原初的精神が見られて大変興味深い。日本の大きな協同組合は大企業を模倣しているので管理職と非正規のあいだでの賃金格差が大きい。格差について、全平均値の5倍以内とか3倍以内とか、すでに法制度に規定する国もあるので、平等という観点からの考察は重要なポイントになるだろう。

分科会での報告

 近本は当研究所の総研レポート89号『子育て支援の効果の見える化と可能性 ~横浜市3歳児健診における養育者調査及びインタビュー調査報告書~』にまとめた、子育て支援領域の働く人々の研究で明らかにしたもの、生成期領域の労働の様子とNPOや協同組合の果たした・果たせなかった点を報告した。同じセッションにインドの教育システムについての報告とタスマニアのハウジング・コープの報告があり、特にインドでは洗練された教育システムが、非技能労働の女性達をエンパワメントをする仕組みとなっていて、興味深いものであった。経済状況が日本とはかなり異なるので、市民のエンパワメントの方法論は異なるが、学習機会や実際の技術指導など、日本でも重要だ。特に生協では若年層の組合員のデジタル生活化に職員が追い付いていないなど、世代間のズレが大きいと感じるので、職員教育や最新の生活技術を学べる場の設計も必要だと感じる。

 今後も折に触れて、学会で触発された成果を報告していきたいと考えている。

参照

※津田直則『社会変革の協同組合と連帯システム』晃洋書房 2012

詳しい報告は『生活協同組合研究』に掲載予定です。ご期待ください!