海外報告
第7回EMES(ヨーロッパ社会的企業研究ネットワーク)国際会議と英国視察報告
【山崎 由希子】

趣旨・目的

 英国シェフィールドで開催される第7回EMES(ヨーロッパ社会的企業研究ネットワーク国際会議、6月24日~6月27日)での調査報告、ロッチデール公正先駆者組合記念館の視察。

日程・訪問地

 2019年6月23日~6月30日
 シェフィールド、ロッチデール(英国)

報告

 2019年6月末に、英国シェフィールドで開催される第7回EMES(ヨーロッパ社会的企業研究ネットワーク)国際会議に出席し、調査報告(医療生協の事業所における組合員のボランティア活動について)を行いました。会議の様子については『生活協同組合研究』の原稿に譲り、ここでは英国滞在中、会議の後に訪問したロッチデール公正先駆者協同組合記念館と、シェフィールドの街で見つけた非営利の起業家支援組織について報告します。

ロッチデール公正先駆者組合記念館

ロッチデール公正先駆者組合記念館の外観。左手のガラス張りになっている部分から上の階に登れるようになっている。

 ロッチデール公正先駆者組合記念館は、英国北西部の大都市であるマンチェスターから北東方向に電車で30~50分(マンチェスター・ピカデリー駅から乗り換えのタイミングによる。マンチェスター・ヴィクトリア駅からだと直通で15分)ほどのところに位置するロッチデール町(人口約10.8万人)の中心地区、トード・レーン31番地に建っています(ロッチデール駅からは歩いて25分くらい)。そこはロッチデール公正先駆者協同組合が1844年に初めて店を開いた土地で、店ができる前は羊毛の倉庫だったそうです。当時、協同組合を信用して店舗スペースを貸してくれる大家がおらず、なんとか借りられたのがその倉庫だったということや、商売に必要な什器・備品を買う資金がなかったために樽や厚板で代用していたこと、地域の卸業者は取引をしてくれず、わざわざマンチェスターまで商品を仕入れに行ったことなどがパネルに書いてありました。このような苦労の末に事業を立ち上げたロッチデール公正先駆者協同組合は成功をおさめ、それに触発された組織が英国中に生まれ、20世紀の初頭には1651の協同組合が存在していたとのことです。

 記念館の1階はロッチデール公正先駆者協同組合の歴史を紹介する展示(協同組合立ち上げ時の規則やG.J.ホリヨークの著書『ロッチデールの先駆者たち』(1857年)が協同組合の発展に果たした重要性の説明、1863年に設立された協同組合卸売連合会の会長を務めたJ.T.W.ミッチェルについてなど)となっています。2階は3分の2ほどのスペースが協同組合の歴史(ロッチデール公正先駆者協同組合だけでなく、協同組合が普遍的選挙権[特に女性の参政権]の実現に果たした役割や、教育を重視していたことなど)の紹介にさかれていて、残りのスペースは現代(1970年代以降)の労働者協同組合に関するパネルが展示されていました。1980~90年代は労働者協同組合にとって厳しい時代でしたが、近年は経済の低成長や失業の多さなどから、労働者協同組合への関心が高まっていると解説されていました。

 訪問した日は、地域のフードバンクに1階入り口のスペースを提供しているとのことで、缶詰や乾燥パスタなどがテーブルの上に積み上げられていました。また、記念館の外、道の反対側の緑地には阪神淡路大震災の慰霊碑がおかれ、「日本、スウェーデン、ドイツ、英国の協同組合関係者によって建立された」と書かれていました。

ユニオン・ストリート(非営利起業家支援プロジェクト)

建物入り口の案内:
「ようこそユニオン・ストリートへ
 3階 貸オフィススペース
 2階 共用/フリーアドレスオフィス
 1階 会議・イベント用貸スペース
 地階 コーヒー&菓子パン、wi-fiとランチ」

 シェフィールドの街を歩いていた時、このカフェのガラス窓に「a place to meet, work and collaborate(出会い、働き、協働する場所)」と書いてあるのが目に留まりました。興味を惹かれて中に入ると、「屋台(を開くため)の学校 ユニオン・ストリートの地階では、飲食業の開業を目指す人々に、場所と支援を提供します」とのサインが掲げられていました。ハーブティとチーズ・スコーンを注文し、カウンターの中にいた人にこの場所(ユニオン・ストリート)について尋ねると、ニュースレターを渡され、ここは空き家になっていた建物を「利益のためでなく、人々のため」に運営するプロジェクトとの説明がありました。

 ニュースレターによると地階のカフェは、初期投資のコストが低く、参入が比較的容易な屋台での飲食店開業を目指す人を支援する目的で開かれており、月曜日から土曜日まで曜日ごとに異なる店主がランチを提供しています。現在のところ月曜日はインドカレー、火曜日はパスタとピザ、水曜日は台湾料理、木曜日は英国式パイ、金曜日は南伊料理の店がランチを提供していますが、土曜日のスポットが空いていて、開業を希望する店を募集しているとのこと(残念ながらランチを試す機会はありませんでした)。この場所で週に1度ランチ営業を行い、その後、路上で安定的に屋台を開くようになった店がいくつもあること、起業を目指す人はこの場所でランチを提供することにより、事務手続きの手間なしに行政の営業許可を受けた施設(キッチン)を使うことができ、経営のノウハウについて専門家の助言を受けつつ、カフェについている顧客にアクセスできる(=ここで好評を得られれば、その人たちから店についての口コミも広まる)ということです。1日の店舗使用にかかる費用は65ポンド(8,840円、1円=136円換算)だそうです。

地階のカフェに掲げられたサイン: 屋台の学校と銘打ち、ここで得られる支援が説明されている。

 また、ユニオン・ストリートのHPによると、2階の共用オフィスでは利用者(作家、デザイナー、コンサルタント、フリーランスや企業の自宅勤務で働く人、自営業を始めようとしている人など)がスペースの運営や他の利用者との交流に小さな貢献(ロッカーの鍵を管理したり、利用者と以前の利用者の交流会を設定するなど)をすると、オフィスの使用料が一部払い戻されるといった仕組みもあります。自宅の外で集中的に仕事をするだけでなく(そういう利用者が多いようですが)、異業種の専門家と交流し人脈を作るといったこともこの場所を利用することのメリットとして挙げられています。

 ロッチデール公正先駆者協同組合の展示に近年の経済状況により労働者協同組合が再び注目を浴びていることが書いてありましたが、ユニオン・ストリートのプロジェクトからも、安定した雇用先を見つけるのは容易ではなく従来とは異なる働き方が模索されているのだと思いました。

詳しい報告は『生活協同組合研究』に掲載予定です。ご期待ください!