研究活動

常設研究会 ― 協同組合法制度研究会 第39回報告 ―

○ 開催日時
2019年5月27日(月)17:00~19:00
○ 開催会場
プラザエフ5階会議室
○ 参加者
19名 (委員5名、事務局2名、オブザーバー12名)
テーマ
報 告:
小野澤 康晴 氏(農林中金総合研究所 理事研究員)
テーマ:
「協同組合と経済学の近年の関係性強化」
概要

 小野澤康晴氏(農林中金総合研究所理事研究員)より、「協同組合と経済学の近年の関係性強化」について報告いただいた。

報告の要旨
1.海外における、協同組合と経済学の近年の関係性強化について

 海外では、協同組合に対して①1980~90年代頃に盛んだった新制度経済学からの分析、②近年広がる「代替的な経済学」からの評価、が行われてきた。2012年には、ICAと Euricse(協同組合と社会的企業に関するヨーロッパ研究機構)が開催したカンファレンス(よりよい世界の実現に向けて―協同組合への理解の促進)において、多数の経済学者が協同組合に関して講演を行っている(『生協総研レポート』No.72 第4部で紹介されている)。
 協同組合と関係性を強化する代替的経済学には、①外部性を豊かさの原因となる大きな要因として位置づけ、②主流派経済学を内に含みつつ、③主流派よりも経験的な根拠に基づき演繹に頼らない方法を重視し、④オリジナルなinstitutional economics(制度経済学または集団経済学)を核とする、4つの特質がある。

2.協同組合と経済学の関係の内外の相違について

 海外においては代替的経済学と協同組合との関係性強化がみられるが、日本では経済学と協同組合の関係は希薄である。その要因としては、協同組合関係者が経済学の論理を活用して自らの組織や事業について把握する取り組みを怠ってきたこと、代替的経済学が日本では広く普及するに至っていないことが要因として考えられる。
 小野澤氏は制度経済学が日本で普及しない理由の一つとして “institution” を一貫して「制度」と訳してきたことで、経済学(農業経済学)関係者からあまり関心をもたれなかったとみている。institutional economics の創始者の1人であるT・ヴェブレンは「経済学は進化的科学ではない」とし、分析すべき個別因果関係および様々な因果関係を束ねるための焦点を集団的慣習や集団的行動と個人の経済行動の関わりに求めている。もう1人の創始者J・R・コモンズは“institution”を「個人の行動をコントロールし、開放し、拡大する集団的な行動」と定義し、institutional economicは人と人との社会関係である transaction(取引)を分析の単位とする真の意味での「社会科学」をめざす、としている。
 主流派経済学に代わる代替的な経済学は、海外の例を見るとおり、協同組合との親和性が高く、その普及に協同組合が連携できれば協同組合の理解度・認知度の向上のみならず、因果的根拠に基づかない「改革」への歯止めとしても意義が大きい。